生きるために不必要で大切なもの[Rental Heart Cafe self-cover] -4ページ目
おかしいな
思い出せないよ
あの川の名前
白い犬を拾った広い河原
あの犬は飼ったんだっけ
泣いたことは憶えてるんだけど
腕時計もらったよ
片づけてたら出てきたって
こんなに安物だったっけ
よくはめたまま寝てたよね
あんなに太いと思ったのに
腕の太さあんまりかわらないよ
今年は櫻が遅いから
花をたくさん買ってきたよ
綺麗でしょ?
しばらくこれで我慢してよ
ここの櫻は見事だもんね
もう少しで満開だよ
さて‥‥行くよ親父
また来年会いにくるよ
No.0220
050405
泣きたかった
泣けないけど
ネガティブ氏が言う
「逃げ出してしまえば?」
ポジティブ氏が言う
「立ち向かわないのか?」
もうどうでもよかった
「少し眠らせてほしいんだ」
彼らは思考の沼に沈んでゆく
そして僕だけが沈みそこねた
孤独な僕のまぶたの裏には
絶望の海が広がっている
No.0219
050404
煌びやかな店内で
女は身体ごと
緊張を隠さずにいた
男は店の中心にいて
華やかな会話で
客の関心を盗んでいた
女は焦っていた
空気中の違和感を
白い肌に感じていた
男は気づいていた
女のジレンマを
視界の端で捉えていた
男が別れを考えていると
女は気づかずにいた
それが別れの理由だった
No.0218
050403
なんかの電話番号が
突然記憶の引き出しから
ポロッとこぼれる
「あれ?」
そういうきっかけで
過去に飛んでゆくことが
街角の交通事故と
ほぼ同じ確率で僕にある
それは昔愛した人の
実家の番号だったり
適当に時給をもらった
初めてのバイト先の番号だったりする
たいていは
5分ほどのショートトリップ
野良犬がゴミ箱を
耳を立ててあさる時間に等しい
そして途方に暮れる
僕は帰り道が‥‥
帰り道がわからないほど
遠くへ来てしまったんだなと
いま見ている夕陽は
こんな僕の感傷におかまいなく
沈もうとして
沈んでゆく
No.0217
050402
捨てる神
拾う神
どっちの神様が
やさしいんだろ
わりと無神経なのは
捨てちゃう神様だな
生き方をややこしくするのは
拾ってくれる神様だよな
拾う神もいずれは
捨てる神になるわけで
思いつきで拾われるのは
かえって迷惑なんだよな
いずれにしろ
誰かに頼ってちゃだめだよね
だめだよなぁ俺って
なんかずっと待ってるよ
No.0216
050401
ゴムが伸びちゃって
ぱんつダルダルなの
歩いているとお尻から
ずり落っこちる小っこめぱんつ
イライラするけど
慣れるとちょっと開放感
天然物ローライズ
はたまた自家製ヒップホップ
履いちゃったから
今日は頑張ってもらいましょ
これが引退試合です
最後の登板ということなのです
ぱんつでむかし喧嘩したなぁ
捨てる前に洗うか洗わないかでね
エコ問題にまで発展したよね
‥‥今どこでどうしてるの?
いなくなると素直になれるのに
なんであんなに意地張ったかなぁ
一緒に暮らすって
むずかしい
愛情も憎しみも常識も非常識も
思いやりも意地悪も全部‥‥
さて‥‥洗濯でもしてみます
No.0215
050331
できるだけ小さな声で
愛してるってささやくんだ
あなたが耳を澄まして
聴いてくれるように
耳がこそばゆくなるほど
くちびるを近づけて
腕がしびれるほど
からだを寄せ合って
アクセントは超音波で
愛してるってささやくんだ
古い歌のフレーズと
あなたが間違わないように
ぼくは心が溶けてしまうほど
あなたのことばかり考えている
あなたは何も気づかないフリ
ぼくの言葉をチャカしている
何度も何度もささやくよ
約束はしない主義だから
何度も何度もささやくよ
紙に書かない主義だから
ふたりの未来が真実なら
僕の想いは嘘かもしれない
もっともっと好きになるから
今よりもっと好きになるから
No.0214
050330
さっき眠ったばかりなのに
もう目覚めてしまった
きっと下剤を噛んだせいだ
夜中の3時は
トイレに行くのに
勇気がいるもの
消化できなかった
ビタミン剤の絞りカス
栄養バランスのとれた排泄物
不自然な生活で
発生するモラルハザード
危険を回避したがための矛盾
夜中の3時に
トイレでうたうと
白い蛇があらわれる
腹痛は一過性
痛みを当たり前に受け入れる
眠気は一時的に遠のいてゆく
だから手にした睡眠誘引剤
舌の下にスプレーした‥‥
僕はまだ間違いに気づけない
No.0213
050329
「普通ね‥‥」
誰かが何の気なしに言った
「普通さ‥‥」
誰かがそれに反応する
普通は平均?
それとも‥‥なに?
100と0の平均は50だよ
そこに50はいないのに
幻のミスター平均値だとか
架空の真ん中姫には逢えそうもない
「普通は!」
誰かが語気を荒げた
それほどに言い張る普通なんて
きっとどこにも存在しない
普通という常識は
特殊という非常識
刷り込まれる前に
掘り下げる勇気
そんなふうなヘリクツで
誰かを煙にまくぼくは
ぼくの知る誰よりも
いたって普通な人だと思う
090614
曇り空
手が届きそうな灰色
電車
はねとばされそうな銀色
人
拒まれそうな肌色
やっぱりね
ビルのてっぺんはガウスでぼかされ
水分をたくさん含んだ
透明のフィルター
なぜなのかな
見たことのない景色に見覚えがある
あと1時間
ここであなたを待つよ
たったいま
そういうふうに決めたんだ
090609