生きるために不必要で大切なもの[Rental Heart Cafe self-cover] -7ページ目

あのキスからやり直そう

050310

視線を交差させられない

知恵の輪のようなふたり

とぎれた時間を少しずつ

継ぎ剥いでゆくしかない



どうしてだまっているの

優しい瞳とはうらはらな

攻撃的なくちびるの形は

君がこまっているしるし



もうどこにも行かないよ

ずっと一緒にいるからね

ぼくらのあの別れの日の

あのキスからやり直そう



No.0194
050310

境界線

050309

地下鉄の手すりを握りしめた

いったいどこへ行くんだっけ



なにか薬をかじったような

この現実は夢なんだっけ



記憶は断片的でとても曖昧なんだ

いつここへ来たんだっけ



何かを失うってどういうことかな

もともと僕のものなんだっけ



あることとないことの希薄な境界

どうしてここにいるんだっけ



No.0193
050309

僕はオリジナル

050308

もっと自信持たなくちゃ

この世にひとつしかない

僕はオリジナルなんだから



ちっぽけな存在だけど

他には見あたらない

僕はオリジナルなんだから



ときどきは消えてしまいたい

消えて解決するものならね

消える勇気などないのだけど



生きてていいんだよね

前向きでも後ろ向きでも

僕はオリジナルなんだから



No.0192
050308

そういう大人

050307

例えば
その人は


言葉とノイズの
区別がつかない


命とプラスチックの
区別がつかない


戦争とゲームの
区別がつかない


そういう大人が
たくさんいて




例えば
その人は


自らの意志でも
自らの選択でもなく


信じないのは
信じないほうが楽だから


愛(かな)しみで充たされず
憎しみで充たされる


そういう大人が
たくさんいて




もしかすると
僕はそういう大人かもしれない



No.0191
050307

大好き

050306

大好きな
気持ちを

大好きと
いうほかには

伝える言葉が
ないのだけど



大好きな
気持ちを

大好きと
いうだけでは

全部を
伝えきれず



どこか
そらぞらしくて

すごく
もどかしくて

ときどきは
泣いてしまう



大好きな
気持ちが

砂粒ほども
欠けることなく

あなたに
届いてほしいから



No.0190
050306

風習

050305

長老達が車座になる

もっともらしく相談をする

収穫祭の生贄を選ぶ



父親達は運命を受け入れる

母親達は遠巻きに心配する

子供達は犠牲を名誉と教えられる



儀式を疑うことなく

村人達は尊い命を捧げ

愚かな風習をやめない



山が岩になり石になり砂になり

人殺しの道具だけが進化する

人間達はあいもかわらず馬鹿げている



No.0189
050305

障害物競走

050304

瞬間で恋に落ちて

瞬間に走り出せたら

かなり動物的な

求愛のサインです



考えてしまいます

考えなくていいことを

とても人間的な

引っ込み思案です



色々あるんだけど

色々なかったことにして

つまり反射的な

恋愛の欲求です



とりあえず

愛し合ってみませんか?

面倒なことは

そのうちなんとかなるでしょ



No.0188
050304

あなた様宛ご意見係行き

050303


              ●洋楽しか聴かないところ

              ●洗った箸を逆さに入れるところ

              ●電話を突然切っちゃうところ

              ●辞書で決着をつけるところ

              ●オーダーがなかなか決まらないところ

              ●勝手にチャンネルかえちゃうところ

              ●すぐ眠くなっちゃうところ

              ●服の趣味が合わないところ

              ●時間を守らないところ

              ●あんまり嫉妬してくれないところ



‥‥以外はあなたの全部が大好きなのです



No.0187
050303

050302

どんなに遠く遠く

たとえば地球の裏側まで

光の速さで逃げたとしても

決して逃れられない



無意味に過ぎてゆく

日々はギザギザしていて

焦りと不満の積木が

危うい火山をかたどっている



心を嗄らして思う

誰にも届かない叫び

消耗してゆく肉体を

癒す術は持ち合わせない



どんなに遠く遠く

たとえば地球の裏側まで

光の速さで逃げたとしても

自身からは逃れられない



No.0186
050302

チャンス

050301

彼はむずかしい内野ゴロを
素手でさばいた

華麗ではなかったが
がむしゃらで貪欲なプレイ


送球に食らいつく一塁手
駆け抜けるバッターランナー

間一髪アウト!ゲームセット!
ドラマチックな勝利!!


しかし祝福される彼はうわの空
右手の痛みが心配だった

しびれた指がポキポキ鳴った
「無謀な守備だったのか?」


着替えた彼は監督室に呼ばれた
「次の試合は‥‥先発だ」

痛みを恐れた
彼は自分が恥ずかしかった


腫れた拳を高々と上げ
意気揚々とバスに乗り込む

スタンドの大歓声が
彼の五官によみがえった



No.0185
050301