白い花の理由 | 生きるために不必要で大切なもの[Rental Heart Cafe self-cover]

白い花の理由

生きるために不必要で大切なもの[Rental Heart Cafe self-cover]-050327


いや、その、それはですね‥‥。
今日はいい天気じゃないですか。
なんといいますか‥‥、
ここに来る途中にですね。

爽やかな初夏の陽射しがですね。
花屋の店先に踊るように、
降りそそいでいたわけですよ。
家から駅までの商店街にある花屋さんでして。

お店の前の舗道に丁寧に撒かれた、
使いついでの打ち水がですね。
午後のそれとは勝手が違って、
なかなか空に散っていかないようでして。

足もとの水たまりを、そおっと避けるついでにですね、
きっと買うつもりはなかったんですが、
ちっちゃな白い花の匂いをかいでみたんですよ。
花の名前も知らずに‥‥。おかしいですよね。

実のところは‥‥、上目遣いでこそこそと、
あの人のことをさがしていたんです。
はぁ‥‥、その‥‥、あの人というのは、
まぁ‥‥、美しくて上品な‥‥、いわゆるお店の人でして。

いつからかあの人と会釈を交わすようになって、
今やそれが一日の始まりなんです。
ささやかな片想いとでもいいますか。
それが、今日は姿が見あたらなかったものだから。

少し調子に乗ってあの人を探していたら、
僕より先にあの人が僕を見つけてしまいまして。
当たり前に接客されたものだから、
それはドギマギしてしまいまして。

それで、がらにもなく、花なんかをですね、
抱えてくることになっちゃいました。
つまり、それがこの花の理由です。
あの‥‥給湯室に花瓶などありますか?



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